
そんな中、NRIネットコム株式会社の「NRIネットコムBlog」は、年間300本以上という驚異的なペースで記事を生み出し続けています。全社員約570名のうち、およそ半数にあたる300名が執筆アカウントを持ち、社内には自発的に情報を発信する空気が根付いています。
以前は情報発信に課題を抱えていたという同社。SIerという事業特性上、詳細な事例を外部に出しにくい環境にありながら、いかにして「発信するカルチャー」を育て上げたのでしょうか。
今回は、クラウド事業推進部 部長の喜早彬さんと、技術広報を主導する小山ちひろさんに、多人数での発信体制の裏側とそれを支えるはてなCMSの役割について伺いました。
スピード感のある情報発信を実現する「カジュアルな立ち位置」
──まずは、貴社の事業内容と「NRIネットコムBlog」を立ち上げた背景について教えてください。
喜早彬さん(以下、喜早):当社は野村総合研究所(NRI)グループに属するSIerで、主にシステム開発、クラウド・基盤、デザイン、デジタルマーケティングの4つを事業の柱としています。
幅広く事業展開しているものの、私たちのようなSIerは、コーポレートサイトに「これができます」とサービスを並べるだけでは他社との差別化が難しいという課題がありました。BtoBサービスのため、お客様のプロジェクトを事例としてサイトに掲載することが難しいケースもあります。
そこで、現場で培った技術ノウハウを抽象化した形で発信し、当社の実態を知ってもらうためのブランディングの場として、2021年の春に「NRIネットコムBlog」をスタートさせました。

喜早彬さん:クラウド事業推進部 部長。クラウド関連のビジネス推進を担う傍ら、全社横断組織「クラウドテクニカルセンター」を兼務し、技術広報やエンジニア育成の全体統括補佐を務める。2021年のブログ立ち上げ当初から運営に携わっている
──ブログ開設以前は、社内での情報発信はどのような状況でしたか。
喜早:以前は外部への情報発信となると、コーポレートサイトのお知らせ欄などを使うしかありませんでした。しかし、コーポレートサイトに載せようとすると「重厚長大できっちりした内容にしなければ……」という意識が働きます。
また、現場が求めるスピード感に合わず、執筆のハードルが高過ぎるという課題がありました。
──そのハードルをどうやって乗り越えたのですか?
喜早:ブログをあえて公式サイトよりもカジュアルな位置付けとできるよう、調整しました。一次レビューは現場の有識者と技術広報チームが行うことで、品質を担保しつつ素早く公開できるフローを組んでいます。また、ブログという特性と目的を勘案して、硬軟幅広い内容を掲載しやすいようにデザインしました。
小山ちひろさん(以下、小山):もちろん、技術的な誤りや世間的にグレーな表現など「やってはいけないこと」は、技術広報チームと専門部署が連携してブロックする体制を整えています。
必要なガバナンスを担保しつつ適度な自由度を確保したことで、コーポレートサイトでは実現しにくかったスピード感と執筆のしやすさを両立できたのです。

小山ちひろさん:NTシステム事業二部 副主任 システムエンジニア。事業会社向けのシステム設計や内製化支援などを担当する。喜早さんから技術広報の主導役を引き継ぎ、現場のエンジニアと密に連携しながら、情報発信の推進や執筆サポートを牽引している
「for DevBlog」でスモールスタート。メディアが軌道に乗ってから「はてなCMS」へ
──メディアの基盤として「はてな」を選ばれた理由を教えてください。
喜早:そもそも、エンジニアの間では「テックブログといえば『はてな』」という認識が広くありました。起案した佐々木(現在の役員)もはてなで個人ブログを書いており、社内にも馴染みがあったことも大きいです。
──最初は「はてなブログ for DevBlog」プランで始め、その後現在の「はてなCMS」へ移行されています。この意思決定にはどのような背景があったのでしょうか?
喜早:プロジェクト当初からはてなCMS(旧:はてなブログMedia)の導入を検討する話もあったのですが、予算変更に伴う再稟議が必要になり、メディアの運用開始までに時間がかかってしまう懸念がありました。
当時はとにかくスピードを優先したかったため、まずは社内承認を取りやすく、低コストで始められるプランを選びました。スモールスタートで文化を育て、「できることを広げたい」という成長フェーズで「はてなCMS」へと移行しました。この段階的な移行が、結果として非常に適した戦略だったと思います。
はてなCMSは「何を書くかだけに集中できる環境」が整っている

「NRIネットコムBlog」のトップページ(2026年5月の「こどもの日ウィーク」開催時)
──現在の執筆体制について教えてください。また、その体制はどのように作ってこられたのでしょうか。
喜早:全社員約570名のうち、約300名が執筆用のCMSアカウントを持っています。社員の半数以上は、これまでに一度は情報発信をしたことがある状態ですね。
小山:ただ、最初からみんなが積極的に書いてくれたわけではありません。「他の人の記事がすごすぎて、こんなこと書いていいのだろうか」と二の足を踏んでいる人も多かったんです。
だからこそ、技術広報チームが「こういう切り口なら書けそうじゃないですか?」と、一人ひとりの背中を押してきました。「こどもの日ウィーク」(育児と仕事に関するブログイベント)や「デザインウィーク」のような参加しやすいイベントも継続し、「自分も書いてみようかな」という空気を作っています。
喜早:2年前からは、新入社員にも研修の一環として必ず1本記事を書いてもらっています。一度、自分で構成を考え、外に向けて文章を書く経験をしてもらうと、その後の執筆へのハードルがぐっと下がるんです。
小山:実際、1年目に1本目を書いた人は、次をお願いしたときに快諾してくれる率が非常に高いです。この「最初の一歩」をどう支えるかが、とても大事だと感じています。
──これだけ多くの方が関わる多人数運営において、はてなCMSはどのような役割を果たしているのでしょうか。
小山:エンジニアにとって、日頃から書き慣れている「マークダウン記法」で直感的に執筆できる点は、執筆の心理的ハードルを大きく下げる要因になっています。カテゴリ管理などのUIも分かりやすく、「なんでこのボタンがここにあるんだろう」といったシステムに対するちょっとしたノイズやストレスがありません。この「ストレスなく使える」というのはすごく大きいですね。
喜早:運営側としては、「下書き共有機能」が非常に役立っています。URLのリンクを発行するだけで、現場の有識者やコンプライアンス担当者へすぐに共有し、レビューを依頼できます。この機能のおかげで、300人規模の体制でも確認フローがボトルネックにならず、スムーズな運営ができています。
──自前でCMSを構築・保守する場合と比べて、違いを感じる部分はありますか?
小山:もしWordPressなどで自前運用していたら、脆弱性が見つかるたびにアップデート対応に追われ、サーバーのお守りまでしなければなりません。はてなCMSなら、そうしたサーバー保守やメンテナンスは全てお任せできます。「何を書くかだけに集中できる」という環境が整っているのは、本当にありがたいですね。
喜早:長期運用を考える上で、サービス継続性への安心感も大きなポイントでした。
また、リニューアル時にはUIやモジュール活用について相談でき、開発担当の方が「このモジュールはこんなふうに使えますよ」と丁寧に伴走サポートしてくれました。単なるCMSの提供にとどまらず、メディアの成長をインフラとして支えてくれていると感じています。
https://www.hatena.ne.jp/cms/security/
情報発信がもたらした、採用やインナーブランディング効果
──はてなCMSを導入され、運営が軌道に乗ってきた今、事業や組織にはどのような効果がありましたか?
喜早:採用面での効果も少しずつ出てきています。新卒・中途を問わず、「ブログを見て応募しました」と言ってくれる方が増えました。また、既存のお客様や潜在顧客の方からも「ブログを読みました」とお声がけいただくことがあります。
ブログが一つのタッチポイントとなり、自分たちが技術に向き合っている姿勢を伝える場になっています。それが提案時のちょっとした加点ポイントになったり、良い印象につながったりしていると感じています。
──社外へのアピールとして確かな手応えがあるのですね。一方で、社内に対する「インナーブランディング」の効果についてはいかがでしょうか?
小山:社内へのポジティブな影響も非常に大きいです。社員が日常的にブログを読んでおり、社内チャットで「この記事面白かった」と共有されることで、コミュニケーションが活性化しています。「この間の研修で会った人は、あの記事を書いていた人だったのか」と、社員同士をつなぐ接点にもなっているんです。
当社の社員は大人しくて謙虚な人が多いのですが、「技術の話をしていいよ」と言うと、途端にうれしそうに語り始めます。そんなエンジニアたちの熱量を外に出し、会社の空気感やカルチャーを伝える場として、このブログというスタイルがすごく合っていたのだと思います。
発信するというエンジニアのカルチャーを守りたい
──最後に、今後のメディア運営における展望をお聞かせください。
小山:「技術発信は基本的にメリットしかない」と私は思っています。まずは、全社員がアカウントを持っている状況を作り出し、それを継続させていくことが直近の目標です。発信しなければ、私たちの良いところを知ってもらうこともできませんから。
最初は技術記事が中心でしたが、最近では海外カンファレンスやイベント参加のレポートを書いてくれる人も増えました。「こんな場所へ行って、こんなことを感じた」という発信も含めて、ブログが社員それぞれのアウトプットの場になっていると感じています。
喜早:もちろん事業貢献は結果としてついてくれば望ましいですが、何よりも優先したいのは「発信するというエンジニアのカルチャーを大事にすること」。「文は人なり」という言葉があるように、記事にはエンジニア一人ひとりの人柄が表れます。
もし事業貢献にばかりフォーカスして、ガチガチに精度を上げた記事ばかりを求めるようになれば、コーポレートサイトの公式レポートと変わらなくなり、執筆のハードルがまた上がってしまいかねません。
技術を発信することは、エンジニアとしての重要な柱です。この素晴らしいカルチャーを守り、さらに成熟させていくことを、これからも大切にしていきたいと思っています。
──喜早さん、小山さん、お忙しい中ありがとうございました!

「カルチャーの魂を受け継いでくれる人に、このバトンを託したかった」(喜早さん) 「このカルチャーを広げ、さらに加速させるのが私のミッションです」(小山さん) スピリットは、確かな信頼とともに受け継がれている
NRIネットコムの事例から見えてきたのは、ブログを継続・成長させる鍵が、「発信したい」と思えるカルチャーづくりにあるということでした。
一人ひとりの背中を押し、まず1本を書ける仕組みをつくること。その積み重ねが、年間300本という発信体制につながっています。
「発信するカルチャーを守りたい」という思いを、はてなCMSが支えています。
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取材・編集:はてな編集部
写真:佐坂和也