
売上拡大や採用、エンゲージメント強化などを目的として、潜在顧客と接点創出を目指し企業ではさまざまなマーケティング施策が行われています。
消費者の急速なデジタル市場の拡大や情報獲得手段の多様化により、情報のタッチポイント、消費行動のトレンドなどはおさえておくことは新施策を検討するときにも重要になってきます。
そこで本企画ではインターネットマーケティングや消費者行動分析を研究している上智大学 経済学部の新井範子教授に、消費者行動に基づいてマーケティング戦略を立てる上で、おさえておきたい消費行動のパターンについて伺いました。
企業の一方的な情報発信から消費者との関係構築を意識したものへ
ーーまずはじめに、普段新井さまがどんな分野を研究されているのか改めて伺えますか。
長く研究しているのは、SNSで上がってくる情報のリコメンデーション、パーソナライゼーションの分析です。どう分析し、どうユーザーに情報を提供すると精度が上がるかという研究を進めていました。研究し始めた頃は、SNSが急速に普及し始めた時期で、情報過多の中からどのようにユーザーに適切な情報を届けるかが課題でした。
例えば、SNSを使うユーザーは、自分にとって価値のある情報が簡単に得られる一方で、広告や関連性の低い投稿によって煩わしさを感じることもあります。そのため、適切なリコメンデーションアルゴリズムを開発することは、ユーザー体験を向上させるだけでなく、企業にとっても重要になってくるはず。これらの一助となるような研究ではないかと考えています。
あとは、消費者行動に基づく研究であったり、IDGs(Inner Development Goals)という、SDGsを達成するために必要な人間の内面的な成長をサポートするためのフレームワークについて、マーケティング視点から検討する、といったことも行っています。例えば最近マーケティング界隈では「パーパス」という言葉を聞く機会が増えていると思いますが、そうした視点をIDGsの実現においても重要、といったことなどを示しています。
▼IDGsとマーケティングの関連性については、以下の新井さんインタビュー記事をあわせてご覧ください
最近はこれらの活動が一段落してきたので、先程少しお話した消費者行動の研究や、私自身「推し」がいることもあり、ファンダムの研究を進めたいと考えているところです。
ーー先ほど少しお話もあったように、インターネット、とりわけSNSなどのデジタル市場の普及に伴い、消費者の購買プロセスは大きく変化していると感じます。特に数年で次々と新しいサービスが生まれ、トレンドも変化していくように思いますが、直近での消費者行動のパターンとしては、どんな傾向が見られますか。
広告へのアレルギーやマーケティングへの抵抗感は以前から指摘されてきていて、いわゆる「広告嫌い」の傾向は変わらずありますね。一方で、TikTokやInstagramのようなSNS上での広告の影響力は非常に強いです。特に、若年層はInstagramの広告に触れる機会が多く、その影響を受けることが少なくありません。
ただ、SNS広告に関して言えば、いかにも「広告」というようなものではなく、単なるプロモーションだけでなく、ユーザー体験を重視したものが増えています。広告そのものがストーリー形式で展開され、消費者にとって感情移入しやすい構造になっているため、広告への心理的な抵抗感を軽減することが可能になっています。また、広告を通じて単に商品を知るだけでなく、その商品に関連するライフスタイル全体を提案するようなアプローチが増えていますね。これは商品そのものだけでなく、中長期的に消費者と関係構築をしていく、といった狙いがあると考えています。
ーー消費者との継続的な関係構築はコンテンツマーケティングの基本とも言えそうです。
そうですね。特にソーシャルメディアの台頭によって、企業と消費者の距離はかなり近くなりました。かつては情報を得る手段が少なかったため、消費者は企業側からの一方通行な広告でしか情報を得る手段がなかったと言えます。
でも今ではインターネットやSNSで少し調べればあらゆる情報が出てきて、自分たちで情報を取捨選択する時代になってきました。特にリコメンド機能やパーソナライゼーションされたタイムラインによって、「自分に関係のありそうな情報」というものばかりが目につきやすい状態になっています。
そんな中で、「興味を持っていないもの」の情報が流れると、ノイズとして受け取られてしまいかねません。消費者に関心を持ってもらい、かつ購買といった行動プロセスに移ってもらうには、前提として企業側の発信に対して消費者が好意を持ってもらう必要が出てきます。
ーー最近ですと企業がSNSアカウントで「中の人」のような人間味を出すところも増えていますよね。
SNS上でのコミュニケーションは非常に重要だと思います。例えば企業アカウントで商品のスペックやお知らせ、といった投稿だけだと、消費者の興味醸成がされないままになってしまいます。ある種「らしさ」のようなものを発信していくことで、初めてまず存在を認知して、その後発信する情報にも関心を持つようになっていきます。
「応援される会社」であるか、がカギ
ーー上記と関連して、近年、各企業は消費者(とりわけ潜在層)との接点創出のためにコンテンツマーケティングの一環としてオウンドメディアで情報発信をするケースが増えてきました。こうしたオウンドメディアの情報発信で意識すべき点はありますか。
よくマーケティング戦略で見るマーケティングファネルだと認知→興味・関心→比較・検討→購入までの流れが逆三角形で表現されるケースが多いですよね。

この図では最初に顧客を多数獲得(集客)して、徐々に減っていって、最後購入に至る……という考え方だと思います。
確かに、この考え方自体は間違っていないと思うのですが、コンテンツを通して関係性を構築していくマーケティング手法の場合は、入口は広く、出口は狭くというよりも、コアなファンをまず獲得し、そのファンを巻き込んで大きくしていく、といった考え方も大事なのではないかと思うんです。いわゆるファンマーケティングと言われるもので、商品やブランド、企業に対して愛着を持ったファンを増やすことで、中長期的な売上を拡大させていく、といったものですね。
こうした点を意識したコンテンツ発信が重要なんじゃないかな、と思います。とにかく集客させる、と広くターゲットをとった場合、もしかすると1回は購入をしてくれる可能性はあるかもしれません。ただ、継続的に関係を続けていくには、消費者がその企業に対しての「愛着」を持ってもらうことが重要だと考えています。
ーー新井さまが共著で発表された『応援される会社』でも「企業側が顧客に寄り添いアプローチしていくことで、顧客もその企業に対して愛着を感じ、そこで購入したいと思うようになる」と語られています。関係構築ができていることで、LTV向上も期待できそうです。応援したくなるという観点では、オウンドメディアを活用する場合、どのような工夫が必要だとお考えですか?
単なる商品やサービスの提供を超えた「つながり」を作ることが重要です。言い換えると、企業が消費者との間に共感を生むようなストーリーを持っていること。
例えば、企業がオウンドメディアを活用して、消費者と直接的に対話できる場を提供することが考えられます。アンケートや意見募集を通じて、消費者の声を具体的なアクションに反映させ、その成果をオウンドメディアの記事コンテンツとして公開することで、「自分の声が反映されている」と実感してもらうことができます。また、特定のテーマや価値観を共有する場を提供し、消費者がブランドとともに成長している感覚を持たせることも効果的です。
また、応援という行動には感情的な側面も大きく影響します。消費者が企業の取り組みや価値観に共感し、そこに感動を覚えると、自然と応援の気持ちが湧き上がります。
オウンドメディアに限らず、応援したくなる仕組みを強化するためには、段階的な構築が重要です。SNSやメールマガジン、専用アプリなども活用して、複数の関係構築の場を持ち、さまざまなチャネルで定期的に価値のある情報を届けることで、消費者との接点を維持できます。イベントなどで巻き込んでいくこともあると思います。
企業と「その場限り」の関係ではなく、時間をかけて信頼を築き、共感を育てることができれば、消費者は自然とブランドや企業を「応援したい」という気持ちになるでしょう。
こうした応援の姿勢は、単に製品を購入する行動にとどまりません。消費者がブランドについてSNSで発信したり、友人や家族に口コミで勧めたりするなど、広がりのある影響力を持つようになります。オウンドメディアやSNSの活用がきっかけとなり、コミュニティが形成されることで、企業と消費者の関係はさらに深まると考えています。
「みんな」に受け入れられようとするのはNG
ーー消費者が「好きだ」「応援したい」と感じるブランド・企業になるために、注力すべきポイントは何でしょうか?
そのブランドらしさ、つまり「らしさ」を明確に打ち出すことです。消費者は、企業の性格やパーソナリティ、エピソードを通して記憶し、愛着を感じます。単に製品スペックやプレスリリースを発信するだけでは心に残りません。
例えば、自動車業界の企業が新車をアピールしたいと思ったときに「燃費がこうです、スペックがこうです」みたいなことをリリースされても、関係性ができていないと正直響かないですよね。それよりも、どういった思いで作って、こだわりはここ、といったストーリーテリングみたいな部分があることで、共感や感動を生み出しやすく、単なる製品以上の価値を消費者に感じてもらえます。ブランド独自の文化やスタイルを発信することも効果的です。
ーーメーカーなど、具体的なモノがある場合はアピールしやすいようにも思ったのですが、例えば保険などの無形商材の場合、「らしさ」を出すのが難しいと思ったのですが、そのあたりはいかがでしょう?
こういう場合ほど、消費者といかに関係を構築するか、が大事だと思います。商材の魅力というよりも「会社」への愛着を持ってもらうことで、いざ購買プロセスに入ったときに選択肢として上がってくるはずです。
サービスとして差別化するのが難しいのであれば、企業としての思いや理念であったり、保険であれば「困ったときに役に立つ」ものだと思うので、消費者の「困りごと」を解消するようなコンテンツを発信していくことで、関係構築をしていくことができるのではないでしょうか。
ーーお話を伺う中で、コンテンツマーケティングを実践する中で「応援される」ような関係構築を目指し、自分たちならではの情報を発信していくことが重要に思いました。ただ一方で、認知度を高めるのを目的としたマーケティング施策の場合「できるだけ多くの人に知ってもらいたい」とつい間口を広げてしまうのはあるあるなように思います。
表現が難しいのですが、毅然と自分たちのスタンスや大切にしたいことをしっかりアピールしていくことが重要、と捉えてもらえるといいのかなと思います。消費者に迎合しようとするのではなく、「私たちはこういう者です」といった旗印を掲げる、といった感じでしょうか。
上記のような「できるだけターゲットは広く」という思考になってしまうのは、結局のところ、自社で打ち出したいことであったり、伝えたいことがふわっとしている状態というケースがあると思います。なので、まずは「自社で大事にしていることであったり、消費者に一番に伝えたいことは何か」を整理した上でアウトプットしていくのがいいのではないでしょうか。










