「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」をパーパスに掲げ、経済情報プラットフォーム「SPEEDA」、B2B事業向け顧客戦略プラットフォーム「FORCAS」、スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」など全9事業を展開する株式会社ユーザベース。
同社では、2022年6月より、アジャイル開発の実践につながる技術情報・開発ヒントなどを発信するオウンドメディア「Agile Journey」をスタートしました。Agile Journeyの戦略や運用について、執行役員 CTO 林 尚之さんにお話をうかがいました。
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株式会社ユーザベース BtoB SaaS事業 CTO / UB Datatechの代表取締役 CEO 林 尚之氏
フリーランス時代にUzabaseにジョイン。2017年からは正社員となり、2018年にSPEEDA CTO、2020年からはBtoB SaaS事業 CTO、2021年10月からはUB Datatechの代表取締役 CEOを兼任。
エンジニア向けのブランディング強化のためにオウンドメディアを開始
__オウンドメディア「Agile Journey」を始めるきっかけについて教えて下さい。
林さん ユーザベースの共同代表でグループ全体のCTOを務める稲垣は、自身がエンジニア出身であることから、技術に対して強い情熱を持っています。昨年、「Play Engineering」というスローガンを掲げ、エンジニア・エンジニアではない多様な職種のメンバーたちが、これまで以上にエンジニアリング力を活用し、それぞれが挑戦したいことに楽しく取り組める 環境をつくるための 支援制度や仕組みづくりを開始しました。
一方で、ユーザベースはB2B向けの経済情報サービスが主力事業であることから、金融系、経済系のビジネスパーソンからは一定の認知度がありますが、エンジニアに対してのブランディングは、伸びしろがある状態でした。
そこで、オウンドメディアを通して、世の中のエンジニアに技術力をアピールしつつ、ユーザベースを認知してもらおうという方針になりました。2021年後半にアイデアが生まれ、そこから具体化のために動き始めました。
__エンジニア向けの情報としては、「Tech Blog - Uzabase for Engineers」も運営されています。「Agile Journey」との役割の違いについて教えて下さい。
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林さん 「Tech Blog」 は、ユーザーベースグループのエンジニアが届けたい技術情報を発信しています。技術ブランディングという目的もありますが、記事を書くことを通じたグループ内のエンジニアのスキルアップという面もあります 。一方で「Agile Journey」は、社内に限らず、いろいろなスキルや知識を持っている方に記事を執筆してもらったり、インタビューに登場してもらうことで、世の中にアジャイル開発関連の情報 を提供していくことを役割にしています。
戦略設計は2ヶ月かけて、丁寧に議論
__「Agile Journey」を始めるにあたって、戦略設計などはどのように進めましたか?
林さん 戦略設計の段階から、はてなさんの支援を受けて一緒に検討を行いました。パートナーにはてなさんを選んだのは、以前から「はてなニュース」のスポンサードコンテンツに出稿をしており、記事制作における関係が築けていたこと、エンジニア向けの高品質なコンテンツが制作できるということから、安心してまかせられると思ったからです。戦略の検討開始時点では、アジャイル開発というテーマもなくて、白紙の状態からスタートしました。
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まず、どういうエンジニア層に情報を届けるのかということから考えました。ユーザベースの課題はエンジニア層の認知度が低いことなので、ユーザベースを知らないエンジニアにアプローチしようということになりました。読者のペルソナ設計も行いました。
同時にどういうメディアにするのかも議論しました。技術全般を網羅するのか、アジャイル開発に特化するのかなどいくつかのアイデアを検討しました。私はアジャイル開発に思い入れがあったこともあり、最終的にアジャイル開発をテーマにすることになりました。この思いは、最初の記事につづっています。
最後のステップで、メディア名を決め、サイトのデザイン、ロゴなどに落とし込んで、ローンチとなりました。
__戦略設計にはどれくらいの時間をかけましたか?
林さん 2−3ヶ月ほどです。はてなさんに、こちらの課題や目指したい方向性、思いなどを伝えて、その上でターゲットやテーマなどを提案してもらい、議論を重ねていきました。具体的な提案があり、その提案理由や背景も説明してもらえたので、納得感があり検討しやすかったです。私自身、いちエンジニアとして最初の記事に書いたような思いがあり、それを把握して解釈した上での提案だったので違和感なく進められました。
課題の整理、ターゲットの設定、ペルソナとカスタマージャーニーの設計など、自分たちだけではリソースを含めて対応が難しかったと思いますが、エンジニアリングとオウンドメディアの両方の知見があるはてなさんにしっかりサポートいただいてよかったです。
エンジニアに届けるための記事制作フロー
__メディア名やCMSはどうやって決めましたか?
林さん メディア名については、ユーザベースのエンジニアだけではなく、はてなさんのエンジニアのみなさんにもアンケートにご協力をいただいて、どの案がよいか調査をするなど、じっくり検討しました。アイデアは他にもありましたが、様々な視点から検討した結果、最終的に「Agile Journey」に行き着きました。
CMSの選定については、自前で構築、運用するという選択肢もありましたが、リソースや運用コストを考えると、SaaSである「はてなブログMedia」にして、すべてはてなさんにおまかせしたほうがメリットが大きいと判断しました。学習コストやメンテナンスも不要ですから、私たちは記事の企画など、本来力をかけるべきところに集中できます。
__記事を1本公開するまでの流れについて教えて下さい。
林さん 編集会議を行って、どういうテーマで記事を作れば、エンジニアにとって新しい気付きになるのか、よい情報の発信になるのかを議論します。エンジニアにアンケートをとって関心の高いトピックを聞いてみることもあります。
こちらから記事のアイデアを出して具体化してもらうこともあれば、はてなさんからの企画提案を出してもらってそこから議論して決めることもあります。記事のテーマが決まると、はてなさんに取材対象者、インタビュー内容を含めた記事骨子案を作成してもらい、それをブラッシュアップしてから記事化する作業に入ってもらいます。初稿ができたら、こちらで内容を確認し調整の上公開となります。テーマが決まったあとの企画、記事作成、公開まではおおよそ2ヶ月くらいです。
__集客施策としてはどんなことをしていますか?
林さん Twitterを活用しています。はてなさんのアカウントからの発信に加え、ユーザベース社内に周知して、社員のアカウントから任意でツイートしてもらっています。もう一つは、エンジニアが多く利用している「はてなブックマーク」のネイティブ広告を活用しており、アプローチしたい層に届けています。記事を公開すれば、はてなブックマークがつきますし、Twitterでも言及されます。メディアを通して、エンジニア界隈でのユーザベースのプレゼンスが少しずつ高まっていると考えています。
認知度獲得のためのオウンドメディアの効果をさらに検証したい
__どのようなKPIを設定していますか?
林さん 目的はエンジニアからの認知を獲得することなので、定期的にサーベイを行って認知度の推移をチェックしています。ユーザベースという社名は知らなくても、NewsPicksなどサービスを知っている人はいますが、傾向として社名を知っている人のほうが好意度が高いので、社名の認知を拡大することの重要性を感じています。
オウンドメディアの効果かどうかははっきりわからないのですが、採用のカジュアル面談に来た方に、応募前にユーザベースを知っていたかどうかをアンケートで調査しています。ここ1年くらいで知っていたという人が増えているので、今後知ったきっかけについても調査し、オウンドメディアとの因果関係を検証したいですね。
なお、定量的な記事の評価としては、PV、セッション数、ユーザー数、流入元などを毎月レポートで確認していますが、それらに目標値を定めるようなことはしていません。定性的な評価としては、はてなブックマークやTwitterのコメントを見て、記事がどのように読まれているのかを評価しています。ポジティブなコメントが多いことを励みにしています。
__今後はどのように運営していきたいですか?
林さん 今までの方針と変わらず、よりよいアジャイル開発の情報を世の中に届けていきたいです。エンジニアが、「Agile Journey」から情報を得て日々の仕事に生かしていってほしいです。新しい取り組みとしては、海外記事の翻訳、海外の事例の紹介などもやっていきたいですね。私たちがメディアを運営する背景には、自分たち自身がインターネット上の情報に助けられて成長してきたということがあります。今度は、自分たちがエンジニアに向けて発信する、恩返しのような気持ちです。
今後、考えていかないといけないことは、記事の長さです。テーマについてきちんと説明することを目指しているのでどうしても記事が長くなりがちです。アクセス解析を見ると、モバイルからアクセスするユーザーが多いので、長い記事はUXとしてどうなのかを考えているところです。一方で、内容のうすい記事にはしたくないので、読みやすさとのバランスを考えていきたいです。
もう一つは記事が増えてきたので、サイトを回遊しやすい仕組みを用意して、読者が読みたい記事にたどり着きやすい設計にしたいですね。
それからこれは私の希望ですが、「Agile Journey」から書籍を出したいなと考えています。著名な人がインタビューに登場したり、記事を寄稿したりしているので、様々な知見を集めた本をイメージしています。
__楽しみですね、ありがとうございました。
執筆:深谷歩