日本国内でNo.1シェアを誇る「クラウド会計ソフト freee」を提供するfreee株式会社。同社は2013年からオウンドメディア「経営ハッカー」をスタートし、会計や税務に役立つ情報を発信しています。
同社で「経営ハッカー」編集長を務める中山順司さんに「経営ハッカー」の成り立ちやこれまでの変遷、どのように記事制作をされているか、「経営ハッカー」が目指す今後についてお聞きしました。
運用コストを下げるためにWordPressから「はてなブログMedia」へ移行
__「経営ハッカー」はいつ頃からスタートされたメディアですか。
中山 始まったのは2013年の9月です。私は2016年入社なので当時のことはわかりませんが、聞いたところによると、自分たちが欲しい情報がなかったから作ったというのが誕生の理由だそうです。
__欲しい情報といいますと。
中山 代表の佐々木(創業者・代表取締役CEO 佐々木大輔氏)がブログを書いていたのですが、そのとき会計や税法などの情報を調べても、インターネットにはなかなか良いものがなかったんです。それなら私たちが情報を発信すれば、きっと他の人の役にも立つだろうと思ったのです。
__最初はWordPressで運営されていたと伺いました。4月から「はてなブログMedia」をお使いいただいているわけですが、切り替えたのはなぜでしょう。
中山 人的リソースが一番の理由です。WordPressは社内で運用する分には費用があまりかからないのですが、アップデートが煩雑だったり、バージョンアップのたびに動かなくなるプラグインがあったりして、てんやわんやになりがちでした。お金ではなく、人的リソース面での運用コストが非常にかかっていたのです。これを何とかするために、はてなさんにお願いすることにしました。
__なぜはてなだったのでしょうか。他のサービスとの比較などはされましたか。
中山 いえ、最初からはてなさんだろうと思っていました。そもそも、はてなさん以外、対抗馬っていなかったんですよ。それにいろいろな企業が「はてなブログMedia」をお使いですよね。楽天さんやぐるなびさんやリクルートさんなど。私はそうした企業の担当者の方も存じ上げていて、相談するたび「はてなさんがいいよ」とずっと聞いていたのです。ですから迷いはなかったですね。考えたのは切り替えのタイミングくらいです。
__タイミングですか。
中山 「freee」というサービスを扱っている関係で、弊社は確定申告や年末調整の時期が繁忙期です。ここを外して切り替えるため、昨年の秋くらいから準備を進めて、間を空けて4月にリリースしました。
__移行してみていかがですか。
中山 想定通りです。メンテナンスフリーになったことが何より大きいですね。心の負荷が減りました(笑)。今まではトラブルが起きるたび大変だったのですが、今ははてなさんが何とかしてくれますから、守られている安心感がありますね。私たちはコンテンツにさえ集中すればいいのですから助かります。
__インターフェースが変わったことに戸惑いはありませんでしたか。
中山 まったく問題はありませんでした。私が投稿することもありますし、チームメンバーが行うこともありますが、既存記事移行中にとくにレクチャーを受けることなしに操作をすべて覚えてしまいました。UIがわかりやすいですし、直感的で触っていればすぐに慣れることができます。はてなさんに問い合わせしたこともほとんどなかったと思います。
SEOを意識した記事制作からSNSで話題になる記事制作へシフト
__「経営ハッカー」のコンテンツ制作フローについて教えてください。
中山 これまで色々なやり方にトライしてきました。立ち上げ当初はクラウドソーシングでライターさんにお願いしたり、同時に「freee」と取引のある税理士さんや会計士さんにお願いして専門的な記事を書いていたことも。初期はSEOを考慮して、ベースとなる記事を増やしていくことを優先していましたね。おかげでSEOについては、半年ほどで結果が出てきました。2016年に私が入社したときには、「経営ハッカー」はもうかなりの規模になっていました。
__最初はやはり記事を増やす必要がありますよね。
中山 ただ、そのあたりで次の課題が見えてきました。記事数は増えてSEOも順調でしたが、どうしてもどこかで見たような記事が多く、量だけでなく質ももっと上げていく必要があると考えました。そこから、専門家の方にお願いしていた記事を少しずつ減らしていきました。本業があって忙しい方々なので、どうしても記事の本数をコントロールすることが難しいのです。また、クラウドソーシングでお願いするやり方も減らしていくことにしました。
各方面で知り合ったライターさんと直接やりとりしながら記事をお願いしていたのですが、いかんせん弊社の制作チームは私一人でしたので、多人数とのやりとりに限界がきたのです。
__中山さんお一人だったとは!
中山 そこで次は編集プロダクションさんにも併行でお願いすることにしました。それが2017年頃のことです。
__それはなぜでしょう?
中山 SEOという意味では、ある程度、自分たちでできることはやれたかなというステージに到達したからです。検索で上位に表示されることは大事ですが、それでは自ら情報を探しにくる能動的な方にしか情報が届きません。検索してこない人にリーチするためには、SNSでシェアされるような話題作りに取り組まないといけないと考えたのです。
__SNSで話題になるような記事作りはどのように?
中山 まだまだ試行錯誤中ですが、取り組んでいるのは私がバイネームで知っているライターさんを30人くらいピックアップしてオファーするというやり方です。どこにでもあるような内容ではなく、書き手なりの知識や経験、こだわりや主義主張が見えるような記事をお願いしています。もちろん、スモールビジネスやバックオフィスで働いている方の役に立つような内容である必要はありますが、それプラス書き手の思いがオーバーラップする記事がベストなんです。正直、SEOについては今はあまり考えていません。
記事の質を高めるには一発目のボールを正しく投げること
__4月からがらりと方針を変えられたわけですが、この方向でいけると踏んだターニングポイントなどはあったのでしょうか。
中山 実は昨年の4〜6月のクォーターで一度、振り切ってみようとチャレンジしたことがあったんです。そのとき「はてなブックマーク」の人気エントリーに入ったり、スマートニュースに取り上げられたりして、ヒットすれば外に拡散できるんだという手応えを得ていました。そういった実験的な試みがあったからこそ、今回のような方針変更もできたのだと思います。
__とはいえ企業メディアですので、どう事業貢献につなげるかも重要ですよね。
中山 もちろんです。「経営ハッカー」の目的はやはり「freee」に興味を持ってもらい、無料版を使ってみようと思ってもらえること。リードのリード、くらいの感覚ですね。ホットなユーザーは自ら「freee」にたどり着きますし、「経営ハッカー」に求められているのは、そうではない“やや遠い人たち”にリーチすることなんです。4月から今の方針に切り替えたので、まだ結果は出ていませんが、今後さらに記事の質を高めていきたいと思っています。
__記事の質を高めるにはどうすればいいのでしょう。
中山 ……私が知りたいくらいです(笑)。ただ、やはり大切なのはライターさんとしっかりコミュニケーションを取ることだと思いますね。そのためには最初の依頼時点で意図や狙いをきちんとお伝えするなど、一発目のボールを正しく投げることが肝心です。私は記事案をGoogleドキュメントで管理しており、ネタリストはスプレッドシートでライターさんと1対1で共有しています。記事案の段階からライターさんと意見し合うことが、齟齬なく記事を進めるために重要だと思っています。
__とはいえ思ったような原稿が上がってこないこともあるかと思います。
中山 そういうときはもっと掘り下げて話をします。その経験をしたきっかけは何だったのか、そう主張するに至った経緯はどんなものなのか……聞いていくとさらに深い体験談が出てきたりして、それを盛り込んでいただくと記事が豊かになっていくんです。得られる情報は同じでも、書き手の気持ちが入ると読み手の納得度は格段に上がります。私はよく「魂で書いてほしい」とお願いしています。文章が少々雑になっても構いません。編集面はこちらでフォローするし、変にブレーキをかけないでほしいのです。
「経営ハッカー」で検索して来てくれるメディアを目指したい
__今後の展開についてはどのようにお考えですか?
中山 「経営ハッカー」自体をバイネームで知ってもらうことが大事だと思っています。そのためにはそのメディア特有の味が必要です。たとえばデイリーポータルZとか……さすがにあそこまでエッジを効かせるのは難しいかもしれませんが、「経営ハッカー」で検索して見に来る人が増えてほしいですね。
同時に「freee」のリードとしての機能も果たしていかなければなりません。まだ答えは見えませんが、まだ他のメディアが作っていなくて、それでいて有益な情報を出していく必要があるだろうと思っています。
__それはかなり大変ですよね。
中山 そうだと思います。だけど、産みの苦しみから逃れてしまっては、”安易なSEO目的のメディア”になってしまいます。大量に作ることだけを優先に雑に作った記事って、読んでいる方からしてもすぐにわかっちゃうんですよね。
__オウンドメディアの運営に携わっている方や、これからオウンドメディアを始めようとされている企業へメッセージをお願いします。
中山 メディアをやること自体が目的にならないようにしてください。アリバイのために記事を作っても絶対に駄目になります。誰の何を解決するメディアなのか、立ち上げ前にそこをしっかり議論するべきです。だいたいのメディアは少人数なのでリソースも限られているし、万人受けを目指して全方位で記事を作るのは難しいです。軸をぶらさず、「やること」と「やらないこと」を決めるのがポイントです。そのための議論に1ヶ月かけても構いません。曖昧に始めて、3ヶ月たってから仕切り直す方がよほど時間の無駄ですからね。
__ありがとうございました!
SEOを考慮したフェーズから、エモーショナルな記事でSNS拡散を狙うフェーズへ。中山様からは、メディア運営に必要なヒントがたくさん詰まった貴重なお話を伺うことができました。
企画・制作:はてな
執筆・写真:山田井ユウキ