東京商工会議所のオウンドメディア「tosho-antenna」は、2020年5月に運用をスタートしました。以前から企画はあったものの、コロナ禍においてメディアの必要性が増したことを受けて、大きな役割を持ってスタートする形となりました。創設時から担当している小松さんにお話を聞きました。
_経営支援や地域振興、人事労務・採用、機関誌「東商新聞」の編集業務などを経て、現在は所内のウェブサイト運用や、ブランディング構築などを担当。
中小企業に求められる情報をタイムリーに発信
__東京商工会議所(以下、東商)さんでは公式サイトを始めさまざまな形で情報発信を行っていらっしゃいますが、その上でオウンドメディアを始められた背景を教えていただけますでしょうか。
小松さん はい。東商では東京23区内約8万社の会員企業を中心に、経営に役立つ情報発信をしたり、現場からの声を国や東京都に届けたりする役割を担っています。こうした情報を会員企業に届ける媒体として、月1回発行している「東商新聞」や、本体サイト、SNS、YouTubeなどを利用してきました。
しかし、中小企業の経営者の方はお忙しいので、本当に必要な情報を見つけることがなかなか難しいのが現実です。そこで、より積極的に、分かりやすい形で情報発信したいと考えたことが大きな動機です。
__20年5月の緊急事態宣言が発令された混乱の最中に運用開始となりましたが、メディアを持つことは以前から計画されていたのでしょうか?
小松さん そうですね、発信する場を増やして活用していくことは検討していました。ちょうどコロナの影響によって、急に必要性が高まったことで推し進められた格好です。経営の役に立つことをしていかなくてはならない、という意識はこれまで以上に強く感じました。
__確かに、コロナ関連で企業経営に役立つ記事を多く掲載していらっしゃいますね。読者は会員企業の方が多いのでしょうか?
小松さん はい。基本は経営者層に目を通してほしい内容が多いですね。感染症対策として換気や消毒の方法、メンタルヘルスなどの記事もありますが、やはり経営の維持や立て直しに関する相談が23区の各支部に多く寄せられていたこともあって、具体的に利用できる制度の説明、申請方法といった情報を当初から特に意識して扱っていました。
9月、10月頃になると、「社員が感染した場合にどう対応したらいいのか?」という声も挙がってきたので、その点を記事にして提供しました。これは現在(12月取材時点)もアクセスを集めています。また東商新聞にも再編集して掲載し好評をいただくなど、いろいろな形でアウトプットに活かしています。
他にも、都や区の取り組み、東商や関連団体のイベント・研修といったお役立ち情報もニーズがあり、定期的に掲載しています。また、東商新聞で掲載している会員企業の新商品・サービス紹介も、Webで掲載してほしいという声に応えて始めました。徐々に所内にもtosho-antennaが浸透し、いろいろな部署からtosho-antennaを使って記事を出したいという声が高まってきました。
__各部署から情報を掲載してほしいと依頼があるのですか?
小松さん そうなんです。最初は掲載ペースを維持できるか心配でしたが、おかげでコンスタントに続けられています。特に若手の職員は内容もよくチェックしてくれていますね。例えば支部で経営相談をする際、「その件ならこの記事が参考になりますよ」と紹介してもらうなど、思わぬ波及効果が出てきているようです。
既存のリソースを活かした記事制作とPR
__現在の運営体制を教えてください。
小松さん 主に関わっている担当は3名です。私の方で全体の調整や進行を見つつ、もう1名とテーマの選定や執筆依頼、校正などを担当し、もう1名がCMSの作業を中心に行っています。
__記事はどんな方が執筆していらっしゃいますか?
小松さん 専門家の方がほとんどです。日頃から経営相談をサポートしてくれている中小企業診断士のほか、感染症関連では産業医、テレワーク関連では社労士といった方々が多いですね。Webメディアは柔軟に幅広いテーマを扱えますし、ある程度情報を網羅できるボリュームを確保できるので、過去に東商新聞でご執筆いただいた方も含め、依頼のしやすさはあると思っています。また、記事テーマに応じて、関連する部署にお付き合いのある方を紹介してもらって依頼することも増えました。
__お仕事の上での人脈が活きているんですね。掲載スケジュールはどう管理していらっしゃいますか?
小松さん だいたい1〜2週間先を目安に記事テーマと掲載日の予定を立て、週3本、多いと4本のペースで掲載しています。執筆者に原稿をもらってから2〜3営業日でページを作成し、チェックを入れて4〜5営業日で形にする流れですね。他部署からの突発の依頼で予定を組み替えることもありますが、ほぼこれくらいのスケジュール感です。
__広告やSNS連携など、外部からの集客施策は行っていらっしゃいますか?
小松さん SNSではFacebookとTwitterで一部の記事をピックアップしています。それと、メールマガジンを週1回配信しています。会員企業の方を中心に約9万人ほどの購読者がいますが、特に感染症対策の記事はアクセスが良いですね。非常に強いPR媒体になっていると思います。
__運用する上でKPIに設定していることはありますか?
小松さん 将来的には、PV数を年間100万まで増やすことを目指しています。そのためのKPIとして、検索流入の比率を高めることが今の目標です。成果が出るまで時間のかかることですが、開設から半年ほど経ったので、はてなさんにもアドバイスをもらいながら今後のやり方を検討しているところです。
テンプレートを活かしながら読みやすい記事ページに
__メディアを開設する上で、CMSはどんな点を重視して選択されましたか?
小松さん いくつか比較検討する中で、はてなブログMediaにはすぐに使えるテンプレートが用意されているので、それを活用することで制作作業がスピーディにできる点がポイントでした。実際に記事制作を担当するスタッフが試してみて、一番使いやすく見栄えの良い形にできる印象を持ったことが大きいですね。
__確かに、テンプレートをうまくご活用いただいていますね。短期間で立ち上げるスケジュールでしたが、大変だった点はありましたか?
小松さん 立ち上げはかなり短期間で、1ヶ月弱程度の期間でした。はてなさんにもいろいろ相談に乗ってもらいました。作業面では記事の見せ方、デザインの部分で、最初のフォーマットが決まるまでかなり試行錯誤しました。スタッフもWeb専門ではなかったので、見出しのスタイルや配色などはいろいろ議論しながら読みやすい形を考えていきました。
__運用を始めてからは、何か課題は出てきましたでしょうか?
小松さん 非常にうまく運用できていると思います。このペースでコンスタントに続けて行きたいですね。ただ、記事本数やタグの数が増えてきたので、この先カテゴリの再整理が必要になりそうです。
__最後に、これから取り組みたいこと、目指したいことがあればお聞かせください。
小松さん 商工会議所は一般の人には縁遠いものと思われがちですが、実は全国に515カ所あって、地元の企業や店舗と一緒に地域で頑張っています。tosho-antennaで経営に役立つ情報を発信することを通じて、中小企業に商工会議所の存在感をアピールし、もっと身近に感じてもらえるようにしてきたいと思っています。
100万PVを目指すのも、「この情報なら商工会議所に行けばある」「経営に困ったときは相談してみよう」という形で浸透していきたいと考えていることが理由の一つです。それがじわじわと伝わって、経営だけでなく地域やカルチャーといった部分も含めて、親近感を持って接してもらえるようになれたらうれしいですね。
__ありがとうございました。
執筆:笠井 美史乃