がん患者や家族が、24時間いつでも匿名で専門家に相談できるオンラインがん相談サービス「CancerWith」を運営する株式会社ZINE。CancerWithでは、主に30〜50代の働くがん患者の治療・生活の悩みに、看護師や社労士といった専門知識を持つアドバイザーが寄り添います。
2015年創業のZINEは、当初はオウンドメディア支援事業を展開していました。コンテンツ制作の一環としてがん患者にインタビューをする機会があり、がん患者が抱える悩み(ペイン)や生き方を知り、がん患者のためのサービスを立ち上げることになりました。
同社では、2021年から「はてなブログ」の小規模法人向けプラン「はてなブログBusiness」を使って立ち上げた「CancerWith Blog」で、事業や関係者のインタビュー記事などを発信しています。ブログはサブディレクトリオプションを使って、サービスサイトの配下(サブディレクトリ)に配置し、サイト全体の発信力をあげています。
オウンドメディアを通じた発信内容や工夫について、取締役 COO 二宮 みさきさん、広報担当で、看護師でもある堀川 明日香さんにお話をうかがいました。

株式会社ZINE 取締役 COO 二宮 みさき氏
2009年、株式会社はてなにデザイナーとして入社、その後ディレクターへ転身。toC向けサービス開発・運営やユーザーコミュニケーション、ブランディングを行う。2015年に乳がんに罹患。治療を経て現在は、オンラインがん相談サービス「CancerWith」を運営する株式会社ZINEの取締役COO。ライフワークとして闘病ブログの執筆、メディア出演の他、「キャンサーペアレンツ」等、がん患者のためのサービス企画・デザインなど精力的に活動中。福岡在住。
株式会社ZINE 広報・コミュニティマネージャー 堀川 明日香氏
川口看護専門学校第一看護学科卒業後、日本赤十字社医療センター外科病棟へ入職。その後豪留学を経て那覇市立病院外科病棟へ入職。現在はカリブ海よりフルリモートで勤務中。がん看護の経験を活かし、患者様、患者様家族に寄り添うアドバイザーを目指す。
ブログ、Twitter、プレスリリースによるコンテンツ発信
__広報の全体的な方針や戦略について教えて下さい。
二宮さん CancerWithの認知度を上げるための施策として、ブログ、Twitterアカウントを組み合わせて運用しています。ブログでは、キャンペーンの案内、プレスリリース、アドバイザーへのインタビューなどを発信しています。CancerWithのユーザーさん向けの施策としては、メルマガを配信しており、ブログから登録できるようにしています。
ブログ立ち上げ前は、CancerWithはTwitter経由の新規獲得が大半でした。弊社の顧問である医師の勝俣 範之先生(Twitter:@Katsumata_Nori)は、Twitterのフォロワー数が多いので、そのツイートから知っていただく方が多いです。
ただTwitterはこまめな発信には向いていますが、情報のストックには向いていません。プレスリリースなど、企業情報としてストックしておきたい情報も、ブログを使って発信しています。企業サイトのトップページにある「ニュース」の欄から、該当のブログ記事に誘導するという使い方です。

__はてなブログBusinessを採用されたのは、なぜでしょうか?
二宮さん 以前は企業サイトがWordPressだったので、ブログもWordPressでよかったのですが、広報担当になって間もない堀川を始め、ITに詳しくない人でも直感的に使える、楽に更新できるという点から、はてなブログBusinessを選定しました。サブディレクトリオプションがあるのも魅力でした。

堀川さん 看護師として医療の現場で働いていたので、ITは専門分野ではありませんしブログを作成したこともありませんでした。最初は使い方がわからなかったので、二宮が作成した記事を見ながら使い方を覚え、すぐに自分でも記事を作成できるようになりました。
二宮さん 堀川はすぐに使いこなしてよい記事を作成してくれています。サブディレクトリオプションを採用したのは、サービスサイトのドメインを長期的に育てていきたいと考えているからです。過去に配信した記事の中には、長い期間にわたってアクセス数が多いものがあり、その記事からサービスサイトへの流入もあります。コンテンツの発信を続けていけば、ドメイン全体が強くなると期待しています。
はてなブログの便利な点は、ブログの配信コンテンツを、サービスサイトだけでなく、企業サイトにも、お知らせとしてRSSで自動的に配信できることです。お知らせカテゴリのブログは企業サイトに、キャンペーンカテゴリのブログはサービスサイトに更新情報を掲載するというような出し分けも簡単にできます。こうした運用の場合でも、サブディレクトリオプションによって企業サイトと記事コンテンツのドメインが変わらないので、違和感のない体験が設計できると考えています。
__ブログでの発信、コンテンツのストックなどで反響や副次的な効果などはありますか?
二宮さん スタートアップ企業の視点からみてよかったことは、ブログやTwitter、プレスリリースの発信を見たユーザーさんやお取引先からしっかり反響をいただけることです。スタートアップ企業と大手企業との業務提携が実現したのも、日々の発信を見てくださって、興味を持っていただけたことがきっかけでした。弊社の事業やサービスについて知っていただいた上でお話をいただいたので、スムーズに事業の話が進みました。
コンテンツ単体で良かったことでは、2021年10月のピンクリボン月間に、勝俣範之先生に乳がん患者の不安の一つとして罹患後の離婚について、がん患者でもある私が聞いてみた記事の例があります。この記事は公開後もTwitterで定期的に患者さんが紹介してくださって、そのたびにアクセスが増えています。
CancerWithの相談内容は、相談者とアドバイザーとの間でのみやり取りされているため、他の方がどんな相談をしているのか表にでません。この記事では、認知獲得につながるのはもちろん、CancerWithでは病気そのものだけではなく、その後のライフスタイルまで踏み込んだ相談ができることをユーザーさんに知っていただくことができました。「相談といっても、こんなことで悩んでいてもいいのだろうか」と思われているユーザーさんも多いので、何でも相談できるということは継続的に発信したいですね。
共感を生む、CancerWithのコンテンツのつくり方
__コンテンツの企画をしっかりとされていて、質の高い記事やインタビュー内容や記事を読むことができるブログだと感じますが、制作はどのように行っていますか?
二宮さん 創業時はオウンドメディア運用支援事業を中心にしており、CEOの仁田坂自身が出版社の雑誌編集出身で、ライティング、制作を行っていたこと、CTOがメディアプラットフォーム運営の経験があり、技術ブログの執筆から編集・査読などを担当していたこと、COOの私もプラットフォーム運営の経験があることなど、創業メンバーがコンテンツ制作に強かったという背景があります。企画やライティングが強い外部のメンバーとのつながりもあります。堀川も、看護師の視点を通した文章を書くのが得意なので、たまたまメンバーがそろっていたことが強みになっています。
__記事制作で気をつけていることはありますか?
二宮さん インターネット上の医療情報については、ここ数年間大きな社会課題になっています。正しい情報を発信することはもちろんですが、同時に意識していることは、患者さんやそのご家族の気持ちについて考え抜くことです。正しい情報であっても、言葉選びや表現に気をつける必要があります。反対に、伝えたいことを曖昧にしすぎると、そもそも記事が想定の読者に届かなくなってしまうので、正しく理解してもらう設計に気をつけています。
__具体的にはどんなところに気をつけていらっしゃいますか?
二宮さん 分かりやすい例ですと、「がん」を「癌」と漢字で書かないようにしています。私も乳がんを罹患した直後は、その文字すら見たくないという気持ちがありました。「がん」という言葉は使わず、「病気」と表現するなど、文脈や記事によって、可能な限り気を配るようにしています。
__医療情報については、正確さ、慎重さが求められます。どう対応していますか?
二宮さん コンテンツを配信する前に、その内容に応じて顧問の勝俣先生やアドバイザーや社内スタッフなど複数の人の目を通すことで、クオリティを担保しています。同時に、あまり守りに入りすぎず、大手メディアが踏み込めないような、ニーズはあるけれども誰もやらないようなコンテンツを出していきたいと思っています。そうしたコンテンツを読んでくださった方からは、「こういうのを読みたかった」というお声や、Twitterで感想やコメントをもらうことがあり、反響が励みになっています。
堀川さん 二宮だけでなく、アドバイザーやスタッフにもがん患者がいるので、こういう表現はよくない、など定期的にディスカッションをしています。表現のリストがあるわけではありませんが、企画や私のコンテンツのレビューなどを通して事例を積み重ねて、共通認識を作っていっている最中です。私はメルマガコンテンツの制作を主に担当していますが、これまで患者さんと直接関わってきた経験を活かして、どんな風に伝えるとユーザーさん、ユーザーご家族が安心できるかを考えています。
二宮さん 堀川はアドバイザー業務をしているときから、コミュニケーションが上手く言葉の選び方が丁寧で、実際にユーザーさんからの評価が非常に高かったので、広報担当になってもらいました。
事業の方針が決まったときに、アクセル全開で走れるように準備中
__失敗や課題に感じていることはありますか?
二宮さん コンテンツを対象読者に読んでもらう点ではうまくいっていると思います。しかし、そこから事業につなげる部分がまだ弱いですね。SNSなどで反響を多くいただいたり、たくさん読んでいただいたコンテンツがあっても、現状はそれが必ずしもCancerWithの利用につながっているわけではないからです。情報発信をする最終的なゴールは、CancerWithが成長することなので、ユーザー獲得を意識したコンテンツの企画を増やすなど、改善していきたいです。
__コンテンツへの集客のために広告の活用などはしていますか?
二宮さん 実験的に小さい規模でやってみて、集客できるか、登録が増えるか、クリエイティブへの反応はどうかを検証しています。
事業として、どの部分でマネタイズしていくのが最適なのかはまだはっきりわかっていない段階です。個人向けの有料プラン、他企業との提携などがありますが、どちらがより有効なのか検証中で、事業としてPMF(プロダクトマーケットフィット)する前の状況です。いろいろなことを小さくやっているフェーズで、アクセルを踏むときが来たら踏みこめるように準備しています。
__反響のなかで、採用への効果を感じる例などはありますか?
二宮さん ありがたいことに、アドバイザーやスタッフへの応募がたくさんあります。しかし、現状ではマネタイズの方向を定めることを優先しており人数を増やせないのでお断りすることが多くて心苦しいのですが......。社会貢献したいと思っている方が、ブログやSNSを見てミッションに共感して応募してくれるのは本当に嬉しいですね。ブログは共感を生みやすいと改めて実感します。
__次にやっていきたいことはありますか?
堀川さん ブログでは、対談コンテンツを増やしていきたいです。Twitterでフォロワー数が多く知名度の高い医師の名取宏(Twitter:なとろむ @NATROM)先生の対談記事も多くの方に読まれているので、そういったコンテンツを増やしていきたいですね。
二宮さん 広報全体としては、メディアへのアプローチ、企業や医療従事者へのアプローチ、ユーザーコミュニケーションなど、統合的に推進していく必要があります。
オンラインの医療情報は、真偽不明なものほどわかりやすく書かれて読まれてしまう側面がありますし、小さなスタートアップ企業が発信しても怪しいと思われてしまいがちです。大きな看板がないので仕方がないことではありますが、正しいことをやっている医療従事者に協力してもらって、ブログに限らず、SNS、他のイベントなどを通して、継続的に発信を続け信頼を獲得していく必要があると思います。
__今後の展開も楽しみです。ありがとうございました。
執筆:深谷歩
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